本の情報
- 著者:松尾豊
- タイトル:『人工知能は人間を越えるか ディープラーニングの先にあるもの』
- 出版社:KADOKAWA(角川EPUB選書)
- 出版年:2015年3月
この本を読んで
最近AIに興味が出てきてAIの勉強をしたいと思っていたところ、たまたまこの本に出会いました。『人工知能は人間を越えるか』という少々センセーショナルな題名と、アニメ絵の表紙、そして角川EPUB選書から出ているなら気楽に読めるだろうという考えから、最初に読むにはもってこいの本に違いないと判断して手にとりました。
読み進めていくうちにまず感じたことは、非常に読みやすいということです。難しい言葉を使っておらず、色々なエピソードを交えながらAIの世界を語ってくれています。そして、やはり最初に読むにはベストな本であることには間違いないと思いました。
ただ、表紙から感じとっていた、ポップでアニメ調の本、というイメージは完全に間違っていました。むしろ、王道中の王道を歩く本で、「AIの変遷」とか「人工知能研究の歩み」とか、そういった題名をつけても差し支えないほど、真っ直ぐAIに向き合っている本です。
著者の松尾豊さんは、東京大学大学院工学系研究科の教授であり、日本ディープラーニング協会理事長も務める、日本の人工知能研究を牽引する存在だそうです。本書にはそういった話は書かれておらず、人工知能研究者にとっては神話の世界の人物であるミンスキー氏と一緒に食事をしながら人工知能がいつできるのかという話をしたというエピソードから、人工知能研究で有名な人なのだろうと推測をしながら読んでいました。長い間人工知能研究に携わっているようなので、おじいちゃんに入りかけのおじさまくらいのイメージを持って本書を読んでいましたが、読み終わった後にネットで検索をして実際のお顔を拝見した時に、想像以上に若い雰囲気だっとことに驚きました。
本書はまず、過去の恨み節から始まります。今から20年くらい前の大学院時代、研究費の審査の時に、「あなたたち人工知能研究者は、いつもそうやって嘘を着くんだ」と言われ、「人工知能という言葉を使ってはいけないんだ」と衝撃を受けた話が、苦い思い出として著者の心に刻みこまれているそうです。この恨み節は、本の入りとして書いただけなのだろうと最初は思いましたが、読み進めていくうちに、結局この辛い記憶が本書を書く動機にもなっているのだろうと感じました。人工知能が2度のブームと、それに伴う2度の冬の時代を経て、今3度目のブームが来ている中、もう一度冬の時代が到来しないために、より多くの人に人工知能について正しく知ってもらいたいと考えているのだと思います。
本書で書かれていることの大枠は、以下に集約されていると思います。
なぜ2回の冬の時代があったのか。なぜ3回目の春には希望が持てるのか。
この「なぜ3回目の春には希望が持てるのか」という問いに答えるために、本書では、第1次ブーム、第2次ブーム、第3次ブームがそれぞれどう異なるのかについて詳細に説明をしています。その説明のために、様々なAIにまつわる出来事や仕組みについて紹介していますが、本文中ではそれらをまとめて以下のように表現しています。
ざっくり言うと、第1次AIブームは推論・探索の時代、第2次AIブームは知識の時代、第3次AIブームは機械学習と特徴表現学習の時代である
そして、第3次ブームは、特に「ディープラーニング」という技術が大きく貢献していると説明しています。
「ディープラーニング」とそれまでの大きな違いは「特徴量」を誰が抽出するのかという部分です。「特徴量」とは「データの中のどこに注目をするか」ということで、「機械学習の入力に使う変数のこと」でもあり、これによってプログラムの挙動が変化します。そして、機械学習の精度を上げるためには、「どんな特徴量を入れるか」にかかっているのに、今まではその部分を人間が頭を使って考えるしかありませんでした。つまり、人間がうまく特徴量を設計すれば機械学習はうまく動き、そうでなければうまく動かないということです。結局は人間が決めなければいけないというところが最大の関門でしたが、「ディープラーニング」は、データをもとにコンピュータが自ら特徴量を作り出すことを可能にしました。このことについて、本書では以下のように表現しています。
ディープラーニングは、人工知能の分野でこれまで解けなかった「特徴表現をコンピュータ自らが獲得する」という問題にひとつの解を提示した。つまり、大きな壁にひとつの穴を穿ったということである。これがアリの一穴となり、ここから連鎖的にブレークスルーが起こっていくかどうかが、今後注目すべき点である。
このようなディープラーニングの発展により、本書では今後起こりうることについて、産業、軍事、そして人工知能は人間を征服するかなど、様々な角度から推察を行っています。
そして最後には、「人工知能技術が独占されることへの警鐘」を鳴らしてます。ディープラーニングの技術を特定の企業に握られてしまうと、そのアルゴリズムが公開されず、既に「学習済み」の製品のみが販売されることになり、その仕組みを明らかにすることは不可能となります。その危険性について、本書では以下のように述べられています。
パソコン時代にOSをマイクロソフトに、CPUをインテルに握られて、日本のメーカーが苦しんだように、人工知能の分野でも、同じことが起きかねない。そして今回の話は、ほぼすべての産業領域に関係するという意味でより深刻であり、いったん差がつくと逆転するのはきわめて困難だ。
幸いなことに、日本には人工知能に関わる人材が諸外国に比べて多く存在しているそうです。ただ、データ利用に関する法整備が遅れているなど、人工知能を活用するための課題が存在します。
こういった状況でについて、著者は以下のように危惧をしています。
現在、ディープラーニングに代表される特徴表現学習の研究は、まだアルゴリズムの開発競争の段階である。ところが、この段階を越えると、今度はデータを大量に持っているところほど有利な世界になるはずだ。そうなると、日本はおそらく海外のデータを持っている企業に太刀打ちできない。世界的なプラットフォーム企業が存在しないからだ。そうなる前にアルゴリズムの開発競争の段階でできるだけアドバンテージを持つ必要がある。逆転までの時間はそれほど残されていない。
そして、
日本には、技術と人材の土台があり、勝てるチャンスがある
とも述べています。
なお、この本の内容と同様のことについて教授している公演が、youtubeに公開されているので参考にしてください。
自己学習のためのトピックス
以下は、今後の自己学習のために、本書に登場したトピックスを記載しました。
- ワトソン
- シェフ・ワトソン
- 東ロボくん
- アマゾン・プライム・エアー
- Pepper
- 高頻度取引
- 気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ
- Google
- DNNリサーチ社買収
- ディープ・マインド・テクノロジー社買収
- 『エージェントアプローチ』
- ハノイの塔
- STRIPS
- モンテカルロ法
- イライザ
- MYCIN
- DENDRAL
- Cycプロジェクト(サイクプロジェクト)
- オントロジー研究
- フレーム問題
- シンボルグラウディング問題
- モザイク(ブラウザ)
- データマイニング
- 統計的自然言語処理
- 教師あり学習 教師なし学習
- 強化学習
- 最近傍法
- ナイーブベイズ法
- 決定木
- サポートベクターマシン
- ニューラルネットワーク
- ILSVRC
- 自己符号化器
- グーグルの猫認識
- シンギュラリティ